大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)1668号 判決 1958年10月08日
原告 株式会社 丸菊
被告 株式会社 梅電社
主文
被告は原告に対し金一〇五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三三年七月一五日から支払済まで年六分の割合の金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告代表者は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、
「(一) 原告は被告の引受をした左記為替手形一通(本件手形)の所持人である。
金額 一〇五、〇〇〇円
支払期日 昭和三三年二月六日
支払地 振出地 大阪市
支払場所 株式会社大阪不動銀行
梅田支店
受取人 田中正一
振出人 田中正一
振出日 昭和三二年一〇月二二日
支払人 被告
引受人 被告
引受日 昭和三二年一〇月二二日
第一裏書 裏書人 田中正一
〃 裏書日 昭和三二年一〇月二三日
〃 被裏書人 原告
第二裏書 裏書人 原告
〃 裏書日 昭和三二年一〇月二三日
〃 被裏書人 株式会社四国銀行
第三裏書 (取立委任) 抹消
〃 裏書人 株式会社四国銀行
〃 裏書日 昭和三二年一〇月三〇日
〃 被裏書人 株式会社富士銀行
第四裏書 裏書人 株式会社四国銀行
〃 裏書日 昭和三三年二月一一日
〃 被裏書人 原告
(二) 原告は、本件手形を、昭和三二年一〇月二二日田中正一より裏書譲渡を受け、同日四国銀行に裏書譲渡し、昭和三三年二月一一日、四国銀行より裏書譲渡を受けたものである。
(三) 富士銀行は、本件手形を、受取人欄白地のまま、支払期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶せられた。
(四) 原告は、本訴提起後、本件手形の受取人欄を田中正一と補充して、昭和三三年七月一四日本件口頭弁論期日において本件手形を被告代理人に支払のため呈示した。
(五)よつて原告は被告に対し本件手形金一〇五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三三年七月一五から支払済まで年六分の割合の損害金の支払を求める。」
と述べ、
「被告主張の事実を争う。」
と述べ、
証拠として甲第一号証を提出した。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決を求め、答弁として、
「(一) 原告主張の事実は、(二)の田中正一より原告へ、原告より四国銀行への本件手形各譲渡の日の点を除き、これを認める。
(二) 原告は昭和三三年一月末頃本件手形を田中正一より譲渡を受けたものである。
(三) 被告は、昭和三二年一〇月二二日、田中正一と、四〇ワツト螢光燈の紙サツク一万個を、納入期限を昭和三三年一月末日と定めて、買受ける契約を締結し、その代金支払のため、本件手形の引受をしたものである。
(四) 原告は、被告が田中正一に対する螢光燈の紙サツクの商品代金支払のため本件手形の引受をしたものであつて、田中正一は未だ右商品を被告に納入していないこと、田中正一と被告との間に田中正一が右商品を納入しなければ、被告は本件手形の支払を拒否することができる特約があることを知りながら本件手形を取得したのである。」
と述べ、
甲第一号証の成立を認めた。
理由
原告主張の事実は(二)の田中正一より原告へ、原告より四国銀行への本件手形各譲渡の日の点を除き、被告の認めるところである。
原告が本件手形を田中正一より取得するに際し、被告が田中正一に対する商品代金支払のため本件手形の引受をしたものであつて、田中正一は未だ右商品を被告に納入していないことを知つていたとしても、それだけでは、原告は手形法第一七条但書にいわゆる債務者を害することを知つて手形を取得したものに該当しないことは明らかである。(最高裁判所昭和三〇年一一月一八日判決、民集一七六三頁)
又原告が本件手形を田中正一より取得するに際し、田中正一と被告との間に商品の引渡がなされないときは、被告は本件手形の支払を拒否することができる特約があることを知つていたとしても、それだけでは原告は手形法第一七条但書にいわゆる債務者を害することを知つて手形を取得したものに該当しないものと解すべきである。
けだし、手形流通保護の要求から、手形法第一七条但書にいわゆる債務者を害することを知つて取得したというためには、満期に手形債務者が抗弁を主張することは確実であるという認識を手形取得者が有していた場合であることが必要であると解するのが相当であるところ、上記特約を認識した場合、手形取得者は、満期における手形債務者による抗弁主張の可能性について認識したものであるといえるけれども、満期に手形債務者が抗弁を主張することは確実であるということを認識したものであるといえないからである。(そのように解しないと、上記の特約事項は、特約をまたず、雙務契約の同時履行の抗弁権に基いて当然なし得ることであるから、手形行為が雙務契約に基く一方の債務履行のためなされたことを知つて手形を取得した者は常に手形債務者から手形取得者の前者に対する同時履行の抗弁権を対抗されるという不当な結果を生ずる。)
よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 小西勝)